現在の賃料は、割高か割安か? また、賃料の遅効性についても解説します。

現在の賃料は、割高か割安か? また、賃料の遅効性についても解説します。

新規に入居するテナントの賃料は、その時点での相場賃料(市場賃料)ですが、長く入居しているテナントの賃料は、入居後の相場変動等により、相場の賃料とはかけ離れていることがあります。

どうして、このようなことが起こるのでしょうか。具体例を交えて、以下解説していきます。合わせて、賃料の遅効性についても解説します。

1.モデルケース

オフィスビルを例に説明します。

例としまして、入居して10年になるテナントがいるとします。

前提として、この10年間でオフィス賃料は、継続して上昇していたものとします。

通常、オフィスの契約期間は2年ですので、2年毎に更新を繰り返し、10年に至っています。

以下、いくつかのパターンに分けて、解説していきます。

 

(1)更新毎に相場賃料に改定されてきた場合

図解すると下記のようになります。

入居時には、相場賃料で契約しますので、相場賃料(オレンジの線)と契約賃料(青色の線)は一致しています。

相場賃料が上昇している場合、契約賃料は、次の更新時まで、通常はそのまま据え置かれますので、相場賃料と契約賃料が乖離します。

そして、更新時(図では、2年目)に、相場賃料で更新契約を結ぶことにより、再度、相場賃料と契約賃料が一致します。

以降は、同様に、相場賃料と契約賃料が乖離しますが、更新時に一致するということを繰り返すことになります。

このように、賃料の見直しは、通常、更新契約時に行われることから、相場賃料が上昇している場合には、契約時(更新時)には、相場賃料と契約賃料は一致しますが、その後乖離し、契約賃料は更新時までは据え置かれ、更新時に、契約賃料は遅れて上昇します。

このように、相場賃料に遅れて、契約賃料が上昇することを賃料の遅効性といいます。

(2)更新毎に契約賃料は改定されてきたが、相場賃料までは上げられなかった場合

相場賃料と契約賃料が乖離する理由、賃料の遅効性についての説明は、上記のとおりなのですが、もう少し実務的、具体的な話を今度はしたいと思います。

モデルについては、同様ですが、更新時に、相場賃料まで、契約賃料を上げられなかった場合について触れます。

事務所に限らず、賃貸住宅でも構わないのですが、物件を借りていた方には、次のような経験をされたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

大家さん、あるいは不動産管理会社から、家賃を上げて欲しい、というお願いをされたことはありますでしょうか。

経験のない方も、自分が実際に、家賃増額のお願いをされたらどうするか、想像してもらいたいです。

増額の金額にもよるかとは思いますが、通常、すんなり承諾することはないのでしょうか。

賃料の変更には、貸主、借主の合意が必要ですので、実務的にはスムーズに行かないこともあります。当事者の交渉で解決できればいいのですが、裁判にまで行く場合もあります。

交渉の流れについては、後程、触れます。

貸主としては、相場賃料まで上げたいのですが、借主も、簡単には合意してくれず、合意してくれたとしても相場賃料まで上げられない、ということはよくあることです。

これを図解すると、下記のようになります。

賃相場賃料と契約賃料が、どんどん乖離していきます。

ですが、これは大問題です。本来であれば、例えば、15,000円/坪の賃料がもらえるところが、10,000円/坪の賃料しかもらえていないということになりましたら、ビルの価格(厳密には、ビルの収益価格)は、大幅に下落します。

物件価格を少しでも高くしたいのでしたら、可能な限り相場賃料に近づけたいところです。

(3)賃料が全く改定されてこなかった場合

次に、極端な例ですが、契約以来、全く賃料が改定されて来なかった場合を見たいと思います。

想像はつくかと思いますが、図解すると以下のとおりとなります。

前記と比べて、相場賃料と契約賃料の乖離は著しくなっています。

放っておいたら、開差は広がるばかりです。

このようなことがあるのかと、思われるかもしれませんが、全くない訳ではありません。

ビルオーナーが賃料改定に無関心だったり、管理会社が賃料改定に消極的だったりすれば、このようなことは起こります。

また、例として、オフィスビルの家賃について説明してきましたが、地代(土地の賃料)の場合には、借地契約の契約期間は、オフィスの契約期間とは異なり、30年以上となりますので、更新時まで放置していた場合には、乖離の程度は相当大きくなることが予想されます。(借地権、地代については、こちらを参照して下さい。)

2.解決方法

相場賃料と契約賃料が乖離する理由、賃料の遅効性について、説明しました。

賃貸借契約の特性上、契約賃料が相場賃料よりも遅れて上昇するのは、仕方のないことです。

ですが、これをそのまま放置すると開差がどんどん広がり、本来取れるべき賃料が取れなくなり、物件価格の下落にもつながります。

また、開差が大きくなると、賃料の上昇幅も大きくなりますので、テナント側も賃料改定に消極的にならざるを得ません。

ですので、ビルオーナーは、定期的に相場賃料がどのような水準にあるのかを、把握しておく必要があります。

土地価格の動向については、公示価格、基準地価格があるので、分かり易いですが、オフィス賃料の動向は、少し分かりにくいかもしれません。

三鬼商事株式会社三幸エステート株式会社などが、オフィス市況を公表していますので、参考になるかと思います。

では、実際に開差が生じてしまったら、どうしたらいいでしょうか。

方法は2つです。

ビルオーナーが自らテナントに交渉するか(自主管理の場合には、ビルオーナーが自ら交渉するしかありません)、通常は、管理会社にテナント管理をお願いしていると思いますので、管理会社にお願いするかです。

(1)自ら交渉する場合

自ら交渉する場合も、管理会社にお願いする場合も、基本的には同じですが、まず自ら交渉する場合について説明します。

テナントに交渉することになりますが、ただ家賃を上げて欲しいと言われても、承諾はしてもらえないと思いますので、値上げの根拠として、固定資産税・都市計画税が上がっている、相場賃料と開差が生じている、ぐらいの根拠は用意しておく必要があります。

これで、テナントが承諾してくれればいいですが、交渉の結果、承諾をしてもらえなければ、次は調停に移ります。

調停は、調停委員がお互いの主張を聞きながら、お互いが納得できる解決案を提案してくれます。

ですが、その解決案に納得できなければ、調停は終了となり、次は裁判となります。

裁判となると、一般には弁護士費用もかかってきますので、調停の段階で話をまとめたいものです。

なお、テナントに交渉する際に、客観的な資料として、不動産鑑定評価書(この場合の鑑定評価は、継続賃料となります。)を活用すると優位に進められる場合もあります。

(2)管理会社にお願いする場合

管理会社にお願いする場合も、流れは上記と同様です。ビルオーナーが自ら交渉するか、管理会社が窓口になるかだけの違いです。

管理会社との契約内容にもよりますが、訴訟になった場合は、通常の管理費用と別に、別途費用となることが多いように思います。

ですので、なるべく訴訟にならないように、解決したいところです。

3.まとめ

相場賃料と契約賃料が乖離する理由、賃料の遅効性、開差が生じた場合の解決方法について、説明しました。

開差が大きくなりすぎる前に、こまめに交渉をしていくことが、後々のトラブルを避けるのに重要かと思います。

また、管理を管理会社にお願いしている場合には、契約書を確認してもらいたいです。

契約形態は様々ですが、契約書の条文に賃料を上げた場合のインセンティブがある場合とない場合があります。

賃料交渉は、必ずしもスムーズに進むとは限りませんので、インセンティブがなければ、管理会社も賃料交渉に消極的になってしまいます。

契約書に記載がなかったとしても、現在のテナントの賃料と相場賃料との乖離はどうなのか、相談してみるといいかもしれません。

今回は、相場賃料が上昇している場合を前提に説明させていただきましたが、反対に、相場賃料が下落している場合もあります。

こちらのケースについては、また、改めて解説する場を設けされていただきたいと思います。

更には、賃料交渉において、不動産鑑定評価書は有利な証拠となりますので、不動産鑑定評価を活用出来る場合についても、説明したいと思います。

 

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