簡易評価ってなんだろう。 -簡易評価って聞いたことありますかー
タイトルのとおりですが、簡易評価という言葉を聞いたことはありますでしょうか。
年に1~2度くらい、弊社にも簡易評価をお願いします、という問い合わせがあります。
最初に、はっきりと述べさせていただきますが、鑑定評価において、簡易評価という文言は使えません。
ですので、教科書的な回答になりますが、簡易評価は出来ない、ということになります。
後程、詳しく説明しますが、正式な鑑定評価(不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価)でない場合には、”評価”という文言は使えない為です。
なお、名称の問題にしか過ぎませんが、簡易”評価”に類するものは、依頼目的等によって、行うことは可能ですので、最後までお読みいただけたらと思います。
不動産鑑定の少し専門的な話しになりますので、少しややこしいかもしれませんので、以下、順を追って、丁寧に説明していきます。
1.簡易評価とは
先に、簡易評価という文言は使えません、と言いましたが、そもそも簡易評価とはどういうものなのか、整理をしたいと思います。
(1)経緯
簡易評価という言葉は、以前は良く使われていました。私の感覚ですが、15年ぐらい前になりますでしょうか。
ここでいう簡易評価とは、正式な鑑定評価ではないことを意味します。簡易と云っていますので、正式な鑑定評価を簡略化したものになります。
なぜ、簡易評価というものがあったかと云うと、一般的には、費用(鑑定報酬)を抑えたいので、簡易評価にしたい、ということだろうと思っています。依頼者側からすれば、費用を抑えたいのは、当然のことです。
また、鑑定評価をする側からしても、案件によっては、十分な調査等が出来ないなどの理由で、正式な鑑定評価とは異なる、ということで、簡易評価としていたことがありました。
これは、私の経験上のことですので、違ったご意見をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
(2)現在の取り扱い
上記のとおり、随分と前になりますが、私も正式な鑑定評価ではない簡易評価をしていました。当時は鑑定会社に勤めておりましたが、正式な鑑定評価は、鑑定評価書、そうでないもの(例えば、簡易評価)は、調査報告書、として発行していました。
平成21年に「不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」と称する)」が公表され、正式な鑑定評価とそうでないものの整理がなされました。
かなり専門的になりますので、ここでは深入りしませんが、正式な鑑定評価とは、「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」になります。
そうでないものは、「不動産鑑定評価基準に則っていない価格等調査」となります。
ですので、簡易評価は、「不動産鑑定評価基準に則っていない価格等調査」に分類されることになります。
2.不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価
「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」は、「鑑定評価書」という名称で発行されるものです。
ですので、「鑑定評価書」という名称であれば(当然のことですが、不動産鑑定評価基準に則っている必要があります)、依頼目的を問わず、問題が生じることはないものと判断します。
3.不動産鑑定評価基準に則っらない価格等調査
「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」は、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価以外の価格等調査をいい、通常、不動産鑑定評価基準の一部分のみを適用・準用したものになります。
ですので、簡易評価は、概念的には、この「不動産鑑定評価基準に則っていない価格等調査」に該当します。
簡易評価は、不動産鑑定評価基準の一部分を適用・準用、言い換えれば、一部を簡略化して、費用を抑えた価格等調査を行うことになります。
4.どんな時に、「不動産鑑定評価基準に則っらない価格等調査」が出来るのか。
そうすると、「不動産鑑定評価基準に則らなくてもいいので、簡易評価をお願いします」、となるかもしれませんが、そう簡単にはいきません。
ガイドライン上には、「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価を原則とする」と記載されているからです。
少しくどいかもしれませんが、「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」を原則とし、例外的(一定の場合)に、「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」を行うことが出来る、ということになります。
では、例外的に、「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」を行うことが出来るのは、どんな場合でしょうか。
ガイドラインには、以下のとおり例記されています。
①調査価格等が依頼者の内部における使用にとどまる場合
②公表・開示・提出される場合でも利用者の判断に大きな影響を与えないと判断される場
合
③調査価格等が公表されない場合ですべての開示・提出先の承諾が得られた場合
④不動産鑑定評価基準に則ることができない場合
⑤その他「Ⅱ.1.依頼目的、利用者の範囲等」等を勘案して不動産鑑定評価基準に則らないことに合理的な理由がある場合
専門的になり過ぎますので、今回は①について取り上げます。
実際のところ、弊社でも「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」を行う場合のほとんどは、①の場合が多いです。
会社内で、物件の購入あるいは売却を検討しており、その参考(会社内で決裁を取る為等)として、依頼を受ける場合です。
5.「不動産鑑定評価基準に則っらない価格等調査」の内容
先に触れましたが、「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」は、不動産鑑定評価基準の一部分のみを適用・準用したものになります。
ですので、土地(更地)の場合には、取引事例比較法のみを適用し、貸しビル、賃貸マンション(貸家及びその敷地)の場合には、収益還元法のみを適用することが多いです。
また、成果品の記載も鑑定評価書と比較して、一部簡略化しています。
例えば、土地(更地)の場合には、上記のとおり取引事例比較法のみしか適用しない場合であれば、収益還元法(土地残余法)は適用しないので、収益還元法の記載はしません。
6.鑑定評価書、調査報告書、意見書
ここで、鑑定評価書と、そうでないものの名称の整理をしたいと思います。
「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」は、「鑑定評価書」という名称で発行されます。
では、「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」の場合の名称はどうなるでしょうか。
これについては、明確な決まりはなく、「鑑定評価書」と区別が可能なように、”鑑定”や”評価”という文言を使わなければ構わないとされています。
ですので、弊社の場合には、「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」の名称は、「調査報告書」としています。
始めに、簡易評価はできない、と記載しましたが、”評価”という文言は使用できない為、簡易評価はできない、ということになります。ですが、調査報告書、という名称でしたら、発行可能です。
なお、「価格等を表示しない」ような場合には、ガイドラインの適用範囲とならないので、この場合には、ガイドラインの制約を受けませんので、弊社では、意見書としています。
「価格等を表示しない」とは、価格を求めることが目的ではなく、変動率のみを求める場合等が該当します。
まとめますと、弊社の成果品は、鑑定評価書、調査報告書、意見書の3種類になります。
7.まとめ
「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」と「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」に説明しました。
簡易評価は、”評価”という文言を使用していますので、成果品のタイトルには使用できません。
また、原則は、「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」で、例外的に、「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」出来る場合がある、ということになります。
ですので、費用を抑えたいから、いわゆる簡易評価(不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査)をお願いしたい、ということは不可能になります。
依頼目的などをお聞きして、「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」でなくてはならないのか、そうでなくてもいいのか、を判断致しますので、まずはお気軽にお問合せ下さい。
別ブログにて、鑑定報酬について書かせていただいておりますので、よろしければご参照いただけたらと思います。