鑑定評価額の違いはなぜ生じるのでしょうか。その理由を探っていきます。
先日、鑑定評価の依頼を受けた案件の話になります。
売買目的で、売買価格の交渉の為、売主、買主のそれぞれで鑑定評価を取るということで、その一方の側として、弊社に鑑定依頼がありました。
その後、依頼者から話を聞いたところ、弊社の鑑定評価額ともう一方の側の鑑定評価額との間に、少し開きがあったとのことでした。
同じ不動産を評価しているのに、どうして差異が生じるのでしょうか。
以下、その理由を探っていきたいと思います。
1.差異が生じる理由
実は、差異が生じる理由は、簡単です。鑑定評価額は、不動産鑑定士の判断の結果ですから、不動産鑑定士によって、判断結果が異なってくるのは当然のことです。
そう言ってしまうと、簡単に終わってしまいますので、もう少し具体的に見て行きたいと思います。
2.具体例 -更地の鑑定評価-
ここでは、更地(土地)の鑑定評価を例に取ります。
更地の鑑定評価では、通常、取引事例比較法と収益還元法(土地残余法)を適用します。
(1)取引事例比較法
取引事例比較法は、不動産鑑定評価基準によると、以下のとおり定義されています。
取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を比準価格という。)。
これを各手順毎にまとめると、
- 事例の選択
- 事情補正
- 時点修正
- 地域要因の比較
- 個別的要因の比較
- 求められた価格を比較考量
6つの手順があることになります。
例えば、
「事例の選択」では、不動産鑑定士によって、選択する事例は異なってくることが予想されます。
「地域要因の比較」では、例えば対象不動産が商業地だった場合に、事例地と対象地で繁華性がどの程度異なってくるかの判断は、不動産鑑定士によって異なると思われます。
「求められた価格の比較考量」も、4つの事例を採用したとして、各手順の結果、査定されたそれぞれの価格について、4つの平均を取るか、より信頼度が高いと判断される事例の方を重視するとか等、不動産鑑定士によって異なります。
3つ例を挙げただけですが、差異が生じる要因は多数あります。
他にも、事情補正、時点修正、個別的要因の比較もあります。
判断がこれだけ積み重なってくると、同じ価格になることの方が、むしろ稀だと思われます。
(2)収益還元法(土地残余法)
次は、収益還元法です。
収益還元法は、不動産鑑定評価基準による定義は少し分かりにくいので、割愛します。
土地残余法とありますが、更地の場合には、建物がありませんので、更地に建物を建て、賃貸に供することを想定して、土地に帰属する純収益を還元利回りで還元する方法のことです。
この説明も少し分かりにくいと思いますので、改めて、収益還元法、土地残余法については、解説したいと思います。
ですので、この方法でも、いくつかの手順があります。
どんな建物を想定するのか、貸し出す賃料をいくらにするのか、還元利回りはどうするのか、と云った具合に、それぞれ判断を要する箇所があります。
先の取引事例比較法と同様に、収益還元法による価格も鑑定士によって異なってくることは、ご理解いただけるかと思います。
(3)試算価格の調整
最後に、試算価格の調整があります。
取引事例比較法(比準価格)、収益還元法(収益価格)を適用して求められた価格を、それぞれ試算価格といいますが、両試算価格を調整して、鑑定評価額を求めることになります。
不動産鑑定評価基準では、両試算価格を関連づけて決定するとあります。
この関連づけるのも、判断ですから、どのように関連づけるのかで、鑑定評価額も異なってきます。
3.まとめ
以上、更地を例に取って、鑑定評価額に差異が生じる理由について説明してきました。
私の感覚では、差異が生じて当たり前と思っております。
ですので、地価公示では、同一地点について、2名の鑑定士で評価しています。
どの地点でも構いませんので、個別地点を検索してもらえれば、2名の鑑定評価書を見ることが可能です。
2名の鑑定評価額が同じになっている地点もあれば、異なっている地点もあります。
また、評価をする対象不動産の存する地域に精通しているか、各類型の得手不得手などによっても、鑑定評価額が異なってくる可能性もありますので、鑑定評価を発注する際には、注意が必要かもしれません。
例えば、賃料の鑑定評価は、価格の鑑定評価と比べると、一般的に、件数が少ないので、不動産鑑定士によっては、賃料評価の経験があまりない方もいらっしゃるかもしれません。